草加光明寺の掲示板に毎月掲出している言葉をご紹介いたします。取り上げる言葉とその解説は、『お寺の掲示板』(江田智昭著・新潮社)等を参考にさせていただいております。
「人生に花が咲こうと咲くまいと 生きていることが花なんだ 生まれてきたことが花なんだ」
「燃える闘魂」という愛称で知られるプロレスラー、アントニオ猪木さんの言葉です。
格闘界で一時代を築いた猪木氏ですが、長く難病を患い、晩年は闘病の様子を動画にしてインターネット上に上げていました。その姿は現役時代のものとはあまりに異なるもので、驚かれた方も多いかもしれません。 『お寺の掲示板』の著者、江田さんは猪木氏の著書を引用し、この掲示板の言葉の元になった一言に触れます。
「(前略)人間がその時その時を精一杯生きている姿こそが、もっとも美しい花なのである。」 『お寺の掲示板 諸法無我』P80より
普通の人であれば病気や老いで弱った姿を見せたくないところ、猪木氏が何一つ恥じることなく自信を持ってご自分の姿を世間に晒してきたのは、このような固い信念が心の中にあるからなのだと見ていきます。
仏教では生老病死の苦しみを「四苦」と呼び、決して避けられない人生の苦しみとしています。病や老いで人生が思い通りにならないことは誰にとっても嫌なことですが、避けて通ることはできません。現代は老いや病の姿を覆い隠し、若さや健康をもてはやす傾向がありますが、それは老いや病に直面したときの苦しみを増大させる原因にもなっています。
ここで江田さんは、浄土真宗の僧侶で仏教学者の釈徹宗氏の著作から、仏教での老いの苦しみへの対策の一つとして挙げられる「諦める(引き受ける)」という方法に着目し、仏教の「諦める」とは「真理を明らかに観ずる」というポジティブな意味であること、誰もが病や老いを避けることができない、という真理を明らかに観て引き受けることが仏教の姿勢であると説きます。
末尾の江田さんの一言を引用します。
ですから、自身の老いや病気をそのまま受け入れ、そのような姿を美しい花と捉える猪木氏の価値観を、私たちもぜひ見習いたいものです。 『お寺の掲示板 諸法無我』P81より
アントニオ猪木氏は2022年10月1日に往生されました。最期まで精一杯に生き抜かれたアントニオ猪木氏に謹んで哀悼の意を表します。
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